特別企画
ブラームスのソナタ
はじまりは「雨の歌」だった。
2022年、とある演奏会でブラームスのヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」を取り上げた。
その際に、次はソナタの全曲演奏会を実現しようと2人で誓い合った。その後「王道のソナタ」の企画が進む中、クラリネットソナタをブラームス自身が世に知られるヴィオラ版と共にヴァイオリンとピアノのために編曲を施した「知られざるソナタ」の存在と出会った私たちは、これもぜひ演奏したいという新たな想いと共に、彼が遺した全てのソナタと向きうことを決めた。
「雨の歌」から始まった今回の演奏会。
作品に想いを馳せたその先に見える世界は、私たち奏者にも未だ見ぬ景色が待っているに違いないと期待に胸を膨らませている。
ヴァイオリニスト 荒井章乃


ブラームスとソナタ
ブラームスはベートーヴェン含む
ドイツ音楽の後継者を自認し、
先人の残した遺産ともいうべき
ソナタというやや格式張った形式の
曲を多く残している。
楽器別では
ピアノ、ヴァイオリン、
チェロ、クラリネット(またはヴィオラ)のためにそれぞれソナタを書いたが、その割合は室内楽や交響曲も含めると同時代の作曲家(親交のあったシューマン夫妻も含め)に比べて多い。

楽器を選ばないソナタ?
その中で今回取り上げる作品120の2つのソナタはやや特異な存在といえる。
なぜなら確かに作曲のきっかけはミュールフェルトというクラリネット奏者との出会いであり、クラリネットという楽器の特性を活かした曲づくりがなされたが、同時にヴィオラ版も出版されているからである。
そして今回取り上げたきっかけともなったヴァイオリン版も同時に出版を目指していたことが出版社とのやりとりの手紙から判明しているのである。
つまりタイミングが合わず実現はしなかったが、3種の違う楽器によるソナタとして同時に世に出そうとしていたことが窺えるのである。
このことはブラームス自身にとってこの曲に関して楽器は違えど音楽としての本質は大きく変わらないことを示している。
ブラームスの構想、まだ世間で認知されていないヴァイオリン版を
世の中に伝えていくきっかけになればブラームスのファンである我々にとって嬉しく思う。
